高額な教育を受けた兄。特別受益になるのでは?

母、兄、妹の3人で、父の遺産6,000万円を分割することになりました。しかし、兄と妹との間では、父から出してもらった教育費などに大きな差があります。具体的にいうと、兄は医学部に進学したため、高額な教育費が6年間かかっていました。それに加えて2年間、海外留学もしています。一方、妹は地元の大学に4年間自宅から通学し、海外留学もしていません。このような場合に、兄にかけた教育費は特別受益に当たるのではないでしょうか? 兄と妹の相続額が同じ1,500万円となるのは不公平な気がします。

特別受益とは?

「特別受益」とは、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として受けた贈与」のことをいいます。身近な例としては、兄弟のうち1人だけが「被相続人からお金を出してもらって豪華な結婚式を挙げた」とか、「被相続人からマンション購入資金をもらった」などの場合に、これらの資金が特別受益に該当すると判断されます。

その場合、被相続人が亡くなった時点の遺産に、特別受益に該当する結婚式の費用やマンション購入費用を加えたものが被相続人の相続財産とみなされます。そして、被相続人が遺言書を残していなければ、この相続財産を法定相続分で分割することになります。つまり、特別受益を受けていた相続人は、特別受益分だけ遺産分割時にもらえる金額が減り、もし、特別受益分が法定相続分よりも多かった場合には、その差額を他の相続人に支払うことになるのです。

このように特別受益分を被相続人が亡くなった時点の遺産に加えることを「特別受益の持戻し」といいます。この特別受益の持戻しは、相続人間の公平を図るために行われます。ただし、被相続人が生前に特別受益の持戻しを免除する意思表示を行っていた場合や遺言書で同様の意思表示を行っていた場合には、特別受益の持戻しを行いません。これを「特別受益の持戻しの免除」といいます。

教育費の差は、遺産相続の分割に影響するのか?

それでは、教育費は特別受益に当たるのでしょうか?

教育費が「生計の資本」に該当するか否かで、特別受益に当たるのか、それとも扶養の範囲となるのかが異なってきます。結論からいうと、教育費が「扶養の範囲」か「生計の資本」か、もし一部が「扶養の範囲」に該当するとしても、どの程度までが扶養の範囲で、どこからが生計の資本になるのかについては、個別の家庭環境により異なります。

教育費と特別受益に関する判例によると、単純に大学の学費だからとか、理系か文系かとか、何年分の教育費といった切り口で判断をしていません。親の資産状況や社会的地位などにより、扶養の範囲内となる教育費の判断は異なり、扶養を超えた分は特別受益と判断されています。

今回の事例で亡くなった父の職業は明確になっていませんが、例えば亡父が開業医であり、兄がその跡をとっているという状況であれば、医学部6年間の教育費は扶養の範囲と考えられる可能性があるでしょう。また、兄の海外留学の費用については、その目的や使った金額などによって扶養の範囲と判断される場合もあれば、特別受益と判断される場合もあるでしょう。

ちなみに、この事例では兄が留年せずに卒業していますが、もし兄が留年していたら、その留年分の学費だけは特別受益と判断されることもあり得ます。

もし、亡父が遺言書を作成していれば、今回の兄と妹の間のトラブルは回避できたかもしれません。兄弟間で親が負担した教育費に大きな差額があるときには、親は遺言書を作成しておくとよいのではないでしょうか。

まとめ

特別受益とは、婚姻や養子縁組、生計の資本として受けた贈与のことです。具体的に何が特別受益になるのかについては、個別の家庭事情により判断が異なります。

なお、特別受益と判断されると、原則としてその分も相続財産とみなされます。今回は、特別受益が遺産相続の際にどのように扱われるのかについてのポイントを説明しました。

文:丹所美紀(行政書士)

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