交通事故の示談交渉の流れと示談金の計算方法・相場とは?

休日に近所を散歩していた時、車にはねられてしまった。運転手の不注意で道路を横断中の私に気づくのが遅れ、慌ててブレーキを踏んだが間に合わなかったのだ。私は足を骨折する大けがを負い1か月の入院を余儀なくされた。治療費などはかさむのに会社は休む羽目になり、家計に負担がかかってしまう。示談金は被害に見合う金額をきっちり受け取りたいものだ。示談交渉は始めての経験だが、加害者とはどのように話し合ったり、示談金の金額を決めたりするのだろう?

交通事故の示談交渉では、事故で負ったけがなどの損害の賠償問題を加害者と被害者が話し合って解決します。示談交渉は事故後いつから、どのような流れで行われるのでしょうか。また、示談金の金額の計算方法や相場はどのようになっているのでしょうか。

示談交渉の流れ

そういえば以前交通事故に遭った友人から「加害者側から治療について口を出されて、言いなりになってしまったので示談金が少なかった」という失敗談を聞いたことがある。加害者側がなるべく支払い額を抑えようと考えるのは自然なことだが、相手のペースに巻き込まれて納得できずに終わるのは嫌だ。どんな点に気をつけて、示談交渉に臨めばいいのだろうか。

近年の示談交渉では加害者と被害者が直接顔を合わせるケースはほとんどありません。示談交渉代行付きの自動車保険が広く普及したため、加害者側は保険会社の担当者が交渉の窓口となることが一般的です。保険会社の担当者は示談交渉を専門的に扱っており

交渉術に長けているため、示談金を請求する被害者にとっては手強い相手となることもあります。

示談交渉を始めるタイミングは事故の種類によって異なります。傷害事故の場合はけがの治療が終了した時点から開始するのが一般的です。その理由は、示談金はこれ以上治療を行っても症状が回復しないと医師が判断する「症状固定」の日を基準に請求額を計算するからです。一方、被害者が事故で亡くなった場合は、通常は四十九日法要を終えてから交渉を開始します。

傷害事故においては示談交渉開始のタイミングをしっかり見極めることが大切です。被害者は、けがの治療中に加害者の保険会社の担当者から「そろそろ症状固定しませんか」と持ちかけられることがあります。この場合、加害者側には早期に症状固定することで治療期間を圧縮して示談金の金額を抑えたいという意図があるかもしれません。さらに後遺障害が絡む場合は、まだ症状が安定していない段階で被害者に等級認定の審査を受けさせ、「認定なし」に持ち込もうとしている可能性もあります。もし加害者側から早期の症状固定を求められても、被害者が素直に応じる必要はありません。けがの回復具合と医師の判断などをもとに症状固定の適切な時期を探りましょう。

症状固定後、示談金の金額を計算

症状固定後は示談金の金額を計算して加害者側と交渉します。特に症状固定後に後遺症が残り後遺障害の等級認定を受けたい場合は、示談交渉とは別に、認定の手続きが必要となります。まず、被害者は医師に診断書を書いてもらいます。そして強制保険の会社に対し、被害者側が妥当だと考える等級を申告して後遺障害補償請求を行います。請求を受けた保険会社は、公平で中立な立場の「自賠責損害調査事務所」に審査を依頼し、この機関の判断で等級が決まります。後遺障害が認められると、等級に応じて逸失利益や慰謝料が上乗せされます。

交渉の末、被害者と加害者の双方が補償内容に合意すれば示談成立です。示談内容は保険会社が用意する示談書に記し、双方が署名・捺印を行って一部ずつ保管します。なお、一度示談が成立すると被害者は加害者に対して追加の示談金を請求できなくなります。もし示談交渉が成立した後に被害者が「けがの治療費が増えた」と訴えても、示談書に記された以上の金額を加害者に支払わせることはできません。

【傷害事故】示談金の金額の相場や計算方法は?退院後の通院や看護への賠償は?

人身事故の示談金のうち、財産的被害への補償には「積極損害」(被害者が事故に遭ったことで発生した支出)と「消極損害」(被害者が事故に遭っていなければ得ていたと考えられる収入)があります。また、精神的被害に対しては慰謝料が発生します。

つまり、示談金の全体像は次のような構成となっています。

「示談金」=「積極損害」+「消極損害」+「慰謝料」+「その他(自動車の物損など)」

傷害事故と死亡事故について、主な項目の相場や計算方法を紹介します。

【傷害事故の場合】

<積極損害>

・医療関係費

けがの治療費は原則として入院・通院を問わず実費相当額を請求可能で、対象期間は治療開始から症状固定までです。近親者や職業看護人が付き添った場合は、日数に応じて費用を請求できます。近親者の入院付き添いなら1日当たり5,500〜7,000円程度が相場です。

<消極損害>

・休業損害

被害者が入院・通院のために就労できなかった期間がある場合、欠勤期間分の収入の補償を請求できます。サラリーマンの場合は事故前3か月の平均給料(各種手当も含む)を元に計算します。仮に被害者の平均月給が25万円で2か月休業した場合、休業補償は50万円です。入院・通院のために有給休暇を使った場合も休業損害にあたり、ボーナス分や昇給遅延による減収分の補償も求めることができます。

・逸失利益

逸失利益とは、事故で後遺障害が残ったことにより減った収入の推計額で、加害者に補償を求めることが可能です。逸失利益の金額は次の手順で算出します。

(1)後遺障害の等級を確定させます。すると労働能力喪失率が決まります(最も重度な1級は100%、最も軽度な14級は5%)。

(2)「事故前の年収」×「労働能力喪失率」を計算して、減収額を明らかにします。

(3)(2)にライプニッツ係数をかけます(就労可能年数に応じた中間利息の控除。ライプニッツ係数は国土交通省のホームページにおいて一覧表で確認できます)。

なお、後遺障害が残っても仕事に支障がなく減収しない場合は逸失利益が認められないことが大半です。

<慰謝料>※3つの基準のうち最も高額な「弁護士会基準」の場合

傷害部分の慰謝料は、治療期間に応じて価格帯が設定されています。例えば1か月入院して2か月通院した場合は62〜115万円が相場です。ただし症状が非常に重い場合は、治療期間に該当する価格帯の上限額に2割程度上乗せした額の請求が認められる可能性もあります。前出のケースでは、上限額115万円×120%=138万円程度となります。

また、後遺障害が残った場合は、後遺障害に対する慰謝料も請求可能です。等級に応じて慰謝料の価格帯等級が設定されており、最も重度な1級で2,700〜3,100万円、最も軽度な14級で90〜120万円です。後遺障害が特に重い場合は親族に対する慰謝料が請求できるケースもあります。

【死亡事故の場合】示談金の金額の相場や計算方法は?傷害事故との大きな違いは?

続いて、死亡事故の示談金の主な項目の相場や計算方法についてです。

【死亡事故の場合】

<積極損害>

・被害者が死亡するまでの医療関係費

は次の手順で算出します。

(1)後遺障害の等級を確定させます。すると労働能力喪失率が決まります(最も重度な1級は100%、最も軽度な14級は5%)。

(2)「事故前の年収」×「労働能力喪失率」を計算して、減収額を明らかにします。

(3)(2)にライプニッツ係数をかけます(就労可能年数に応じた中間利息の控除。ライプニッツ係数は国土交通省のホームページにおいて一覧表で確認できます)。

<慰謝料>※3つの基準のうち最も高額な「弁護士会基準」の場合

死亡事故の慰謝料は被害者の家庭における立場によって金額が異なります。

一家の支柱の場合:2,700〜3,100万円

一家の支柱に準ずる場合:2,400〜2,700万円

その他の場合:2,000〜2,500万円

 

示談金はこのような計算方法や相場から算出しますが、事故の発生について被害者側にも落ち度がある場合は、被害者の責任の程度に応じて示談金が減額されます。例えば、歩行者が赤信号で横断歩道を渡り始め、そこを自動車が青信号で通過しようとして発生した事故の場合、歩行者の過失割合は70%となります。これが認定されると、賠償金の総額は過失がない場合と比べて70%減額されるのです。過失割合は、過去の事故を参考に原則的な過失割合と修正要素がパターン化されています。

 

交通事故の示談交渉は人生で何度も経験することではありませんから、誰しも戸惑うものです。事故後に実際の示談交渉に入る前に全体の流れや示談金の金額の計算方法や相場を知っておけば、適切な判断の助けになるでしょう。加害者の保険会社の担当者から言われたことに疑問や不安を感じたら、弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。

 

参考文献:吉田杉明・山川直人『[イラスト六法]わかりやすい交通事故』(自由国民社、2015)

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