税理士もかかわる税務訴訟とは何か?

司法・立法・行政の三権分立は小学校の社会科でも習うことです。税金というと「立法(国会)で審議をして、課税された税金を行政(内閣など)が運用する」という印象があります。しかし、実は税金は司法にも関係があります。

税金は法律に基づいて課される、という大切な原則

税務にも司法の場で争うこと、つまり税務訴訟という分野があります。そのことを理解するためにはいくつかの基礎的な言葉を覚えておく必要があります。

租税法律主義

税金は法律に基づいて課税されます。これはすごく当たり前のことのように思われていますが、実は現代社会が成立するうえで本当に大切な基礎的条件です。もし、このことが守られなかったらどういうことになるでしょうか?

仮に、その国を支配する独裁者が「明日から髪の長い人には毛髪税をかける!」と宣言をした時点で、毛髪が課税対象となってしまうということです。近現代になるまで、こういった為政者の機嫌によって税金の状況が大きく変わるということは珍しくありませんでした。それくらい課税権というのは強い力を持っているのです。

日本国憲法でも第30条で「法律に基づいて納税の義務を負う」と書かれているのに加え、第84条でも「あらたに租税を課す場合には法律が必要」と念押しをしています。最高規範といわれる憲法において、わざわざ2つの条文を割くくらいに課税権は重視されているのです。

法律なのだから、司法の場で争うことができる

税金の計算というと、どうしても申告書の作成や納税といった手続き的な話が多くなります。しかし、上記で紹介したように、税金は法律に基づいて課されるものですから、司法の場において法律論を戦わせることができます。それが「税務訴訟」あるいは「租税訴訟」といわれるものです。

争うことができるのは以下のような分野です。

  • 課税訴訟

争点となっている課税がそもそも課税されるべきものなのか、といった課税の実態について争います。

  • 徴収訴訟

税金の徴収に関して争います。

  • 違法な質問調査検査行使等を理由とする国家賠償訴訟

課税庁は質問検査権といった強力な権力を保有しています。その不適切な運用により損失を受けたことに対して国家賠償訴訟をすることが可能です。

通常、税務訴訟というと課税訴訟のことをいいます。法律というのは、その解釈によって運用が変わるものです。争点となっている事案が本当に課税対象となるべきものなのか、異なる形式によって課税されるべきではないのかといった争点は起こりえます。

有名な論点として、ストックオプションに関する課税において、課税所得が減少する一時所得とすべきか、給与所得とすべきか、ということが争われたことがありました。この件に関しては最高裁まで争われ、最終的には国側が勝訴するという結果に終わっています。

税務訴訟と税理士

裁判と専門家といえば、当然弁護士さんの出番です。税務訴訟も論点は法律ですから、弁護士さんの守備範囲となります。しかし、税務訴訟に関しては税理士が関与することが認められています。

税金って難しいのです……

例えば、税務上に関する何かしらの論点について裁判をしたいとします。では、弁護士さんがそれをやるとなって実際にできるのかというと、非常に難しいです。理由は「税金がとても難しい制度だから」です。

通常の民事事件や刑事事件といった分野とは明らかに異なります。そして通常の訴訟に比べて、税務訴訟ではより緻密かつ強固な立証が必要になるといわれています。そこで税金の専門家である税理士にも役割を担わせよう、ということでこのような制度ができました。

税理士に期待される役割

税務訴訟において、税理士は以下のような役割が期待されています。

  • そもそも税法が適正なものか?

その定められた税法が法律として適切なものなのか、一定の人に対して不当な差別をするような内容になっていないかなど、憲法違反といった観点から、税法そのものの正当性を争う姿勢が必要です。

  • 適切に運用されているのか?

定められた税法の運用に問題はないのか、課税庁側において不当に拡大解釈され、本来はされるべきでない課税がなされていないかなど、運用面のチェックも税務訴訟の重要な役割です。

税法というととても大きな話ですが、常に国民の側から検討する姿勢をみせることは大切です。そのような観点から税務訴訟という分野は重要度が高まっており、そこに関わる専門家にも期待がかかっているのです。

しかし、実際にはまだまだです

とはいえ、税務訴訟が普及しているとはまだまだ言いがたい状況です。それは、税務訴訟を本格的にやるとなれば、本当にそれだけに注力するくらいの努力が必要だからです。弁護士でそこまで税務に特化した人は少なく、そして税理士は日常的な業務に追われているため税務訴訟に関わる人はほんのひと握りでしかありません。適切な税務環境の構築を目指すため、課題を持ちつつもこれからに期待というのが現状です。

まとめ

税金にも、司法に関する争点があります。それは、税金は法律に基づいて課される、という大原則を基に司法の場で争う税務訴訟という分野です。法律に関する論点であるため、基本は弁護士が関与しますが、非常に専門性が高いことから税理士の関与も認められています。適切な税務環境構築のためにはとても重要ですが、現状ではまだ普及しているとはいえません。

文:高橋昌也(税理士)

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