民法改正案で、相続税はどうなる?

私たちの生活に大きな影響を持つ法律の代表例が民法です。私たちが日常的に行っている契約や意思表示、それから人が亡くなったときに生じる相続についても、民法で規定されています。現在、その民法の大改正に関する動きが進んでいます。今回は、そのなかでも相続分野に関する話をいくつか取り上げてみましょう。

民法と相続税法の関係

一般的には「相続=相続税」というイメージが強いのですが、これは少し短絡的です。きちんと段階を踏んで話を進めないと、今回の改正についてその影響を見誤ることになってしまいます。

民法では「誰がどれくらいの遺産をもらうべきなのか?」を規定している

誰かが亡くなったとき、その人が死亡した時点で所有していた財産(遺産)は、親族を中心に配分されることになります。その取り分についてのガイドライン(法定相続分)を示しているのが民法です。「配偶者は2分の1、子どもが全員で2分の1」など、遺族の状況に応じて誰がどれくらいの遺産をもらうのが適当であるかを規定しています。

実は、遺族が全員で納得をしていれば、遺産はどのように配分しても構いません。一昔前でいえば、家制度のような考え方を基礎として、遺産は長男がすべてもらうということもありました。とはいえ、やはり民法のガイドラインとしての力は非常に強く、民法上でどのように取り分が決められているのかが各遺族の取り分に大きな影響を及ぼします。

相続税は「取り分が決まったあとの税額計算」を決めている

相続税は民法などを基にして遺族の取り分が決まったところで、では改めて相続税は全体でいくらになり、誰がどれだけ負担することになるのか、という計算方法を決めています。その計算体系はかなり複雑なのですが、特に注目したいのは「仮に法定相続分で遺産が分配されているとしたら税金はどうなる?」という考え方が組み込まれていることです。これは、極端な租税回避などを防止するための仕組みなのですが、税金の計算段階においても、民法での決め事は大きな影響を及ぼすのだと理解しておけば大丈夫です。

今回話題になっているのはあくまでも民法の改正ですが、民法の改正が進むと必然的に相続税の改正も進む、ということをしっかりと理解しておくことが大切です。

民法改正で取り分にどんな変化が起こるのか?

現在わかっている改正の試案では、以下のような具体例が出てきています。

  • 配偶者の法定相続分引き上げ

これまで一般的な相続において、配偶者の法定相続分は2分の1でしたが、これを3分の2に引き上げる方向で話が進んでいます。これは高齢化の進展を意識した結果です。相続発生時点において、すでに相当な高齢となっている配偶者の生活保障をするために、このような話が出てきました。

ただし、一方で若年層への財産移転こそが景気回復には必要不可欠といった議論もあり、実際にこのような方向に話が進むのかは不透明な部分も残っています。

  • 献身的な貢献をした非親族の請求権

現行の民法で想定されている相続人は、あくまでも血のつながりがある親族だけです。ですから、例えば実子の配偶者などはその対象とされていません。しかし、これも高齢化の進展などを受けて、「主な介護は子の配偶者が行っている」といった事例が珍しくありません。

こういった現状を考慮し、貢献をした非親族が相続人らに対して金銭的な請求をすることができるような仕組みを作ろうということです。直接的に相続財産が手に入るわけではありませんが、生前の貢献を評価するためにこのようなアイデアが出てきたというわけです。ただ、貢献というあいまいな物差しが関わることもあり、紛争の多発化や長期化も懸念されています。

  • 配偶者の居住権を確保

亡くなった人が遺言書を用意していた場合、基本的にはそこに書かれている内容は最優先で取り扱われます。極論をいえば「私の全財産は恩人である友人Aにすべて遺す」と書かれていれば、その通りに分配されることになります。実際にはほかの規定もあってそのままでは進みませんが、遺言書というのはとても強い効力を持っています。

そうなると、同居をしていた配偶者からすれば「ある日自宅が突然他人のものになった」という状況を生み出すことになってしまいます。実際にこういった事例で立ち退きを迫られることもあり、今回の改正では「遺された配偶者は自宅に住み続けることができる権利を有する」というような方向で話を進めているようです。

民法改正による相続税への影響

どちらかというと、今回の民法改正案では「同世代である配偶者を優遇するような方向」で話が進んでいるようです。ということは、相続税のほうでも「配偶者が遺産を取得するほうが税金は安くすむ」方向で話が進むことになるでしょう。これは裏を返せば、下の世代に遺産を渡すことを考える場合には、税負担が少し重くなることになるかもしれません。

まとめ

民法では、「遺族がどれくらいの遺産をもらうべきか」というガイドライン(法定相続分)を決めています。そのガイドラインについて、高齢化の進展を意識して配偶者を優遇したり、介護などの貢献をした人間に対する請求権を認めたりする案が出てきました。相続税の計算は、民法から大きな影響を受けているので、この改正がなされれば、配偶者以外の人が財産をもらう場合、税金が高くなる可能性もあります。

文:高橋昌也(税理士)

参考:

  • 日本司法書士会連合会|設置機関|民事法改正対策部|民法の改正について
  • 日本経済新聞(Web刊)|結婚長期なら配偶者相続「3分の2」法制審が中間試案

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