地価上昇時は、相続時精算課税で生前贈与したほうがいい?

少子高齢化の進行により、相続に関する話題が増えています。また、国税庁によると、8年ぶりに路線価が上昇しました。地主さんとしては相続税が気になるところでしょう。そこで、今回は十数年前から導入が始まった生前贈与制度の一種である相続時精算課税について取り上げてみます。

相続時精算課税制度の基本は「相続の前倒し」

まず大前提として、不動産などの財産移転はその多くが「人が亡くなった時に行われる」ということがあります。亡くなった人が所有していた各種資産に応じ、その遺産を取得した人に課されるのが相続税です。しかし、人が亡くなるまで財産の移転が行われないことが慣例化したことにより、日本国内では高齢者が財産の多くを所有し、下の世代に行き渡らないことになってしまいました。

そこで、このような状況を打開しようと始まったのが相続時精算課税です。読んで字のごとく、相続時=誰かが亡くなった時に、精算=いろいろとまとめて、課税=税金を課します、という仕組みです。

相続を補完する仕組みとして、生前贈与があります。人が亡くなるまで待たず、生きている間に誰かに財産をあげてしまうことです。ただし、生前贈与はもらった人が丸儲けであることもあり、税金がとても高く課されることになっていました。このように、贈与税率に比べると相続税率が低いことから、「人が亡くなるまで待っていたほうが、税金が安くなる」ので生前贈与は使いづらい、と多くの人が考えていました。

相続時精算課税は、そのジレンマを解決するための仕組みです。

  • 生前贈与をした時点では、相当な高額になるまで贈与税を課さない

生前贈与は税金が高い、というデメリットをなくしました。

  • 贈与税が発生した場合、納税した贈与税額は「相続税の前払い額」と考える

高額な財産を生前贈与して贈与税が出た場合、その金額は相続税を仮払いしたようなものと考えます。

  • 最終的な課税は、ご本人が亡くなって相続税を計算するときに終わる

相続時精算課税制度のもとで行われた生前贈与は、相続時にすべて持ち戻しがされます。そして、改めて相続税の計算を行います。もし納税していた贈与税がある場合には、相続税の前払い分として納税額から差し引かれることになります。

最終的な課税関係を相続発生時に行うことで、相続税の低税率と生前贈与による財産の循環を両立しようと考えているのですね。

相続時精算課税制度は、税金上、損得が生じることがある

相続時精算課税による生前贈与は最終的に相続発生時に持ち戻す、つまりなかったものとされるのですが、一点注意が必要です。それは持ち戻すときの価額は「贈与が行われたときの金額」で考えるということです。これは、例えば今日の時点で1,000万円の土地が、20年後に今よりも高くなっているか、それとも安くなっているかによって損得が生じるということです。

地価が上昇している場合

20年後にその土地の値段が3,000万円に上昇していたとしましょう。普通に相続税を計算するのであれば、その土地は3,000万円で相続税を計算します。しかし、相続時精算課税制度を活用した場合、相続税の計算で用いられるのは贈与時の価額である1,000万円です。つまり、相続時精算課税を活用したことにより、20年後の相続税計算時に2,000万円の課税価格圧縮に成功した、ということになります。

地価が下落している場合

上と逆のことも当然起こります。例えば20年後に土地の値段が300万円に下がっていたとしても、やはり持ち戻す金額は贈与時の1,000万円です。つまり、相続時精算課税を使ってしまったために、20年後の相続税計算時に700万円だけ課税価格が上がってしまうことになります。

生前に財産を移すことができる、というメリットは非常に魅力的ですが、実際に人が亡くなったときにはどんな影響があるかわからない、というのがこの制度の怖いところです。特に、昨今は不動産価格の先読みが本当に難しく、単純に節税を狙ってこの制度を利用するのはあまりオススメができません。

資産が多い人は使うのが難しい制度

相続時精算課税制度は、どちらかというと「それほど資産額が多くない家庭」に有利な制度といわれています。自宅不動産が1つといくらかの金融資産がある。これくらいの人であれば、仮に相続が発生してもそんなに多額の相続税は出ないだろう。であれば、生前に財産の移転をしてもそれほど大きな影響は出ないだろう。そんな想定があります。

言い換えると、資産をたくさん持っている人の場合には、安易に利用してしまうと「相続発生時にいろいろと大変な思いをする」可能性がある制度といえます。目の前の贈与税がなくなる、安くなるといったわかりやすいメリットに騙されず、その活用について熟考する必要があります。

まとめ

相続時精算課税制度は、生前贈与のための制度のひとつです。生前の贈与時は贈与税等について優遇をし、最終的に相続が発生したときに課税を完結させます。そのため、財産の価額が上下動すると、税金上損得が生じることがあります。特に財産をたくさん所有している人は、その利用について熟考が必要でしょう。

文:高橋昌也(税理士)

参考:

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