税制改正で、国外財産に対する相続税逃れへの規制が強化?

平成29年度の税制改正大綱では、相続税に関する改正も取り上げられています。今回は、国外に財産(以下、「国外財産」)がある場合の課税関係について整理をしてみましょう。

そもそも相続税の課税範囲は?

相続税の課税範囲は、漠然としか理解していない人が多いようです。しかし、厳密に考えてみるといろいろと難しい事例があることが分かってきます。

  1. 日本に住んでいる日本人Aが、日本に住んでいた日本人Bから遺産を相続した場合

最も一般的な事例です。この場合、相続した遺産すべてに対して相続税が課税されます。このときにポイントとなるのは、遺産が国外にあるときです。「すべての遺産」に対して課税されますので、国外財産についても相続税は課税されます。

  1. 外国に住んでいる外国人Cが、外国に住んでいた外国人Dから遺産を相続した場合

これもまたよくあるお話です。この場合、相続税は課税されません。当然ながら、地球上には日本以外の国家がたくさん存在します。具体的には「アメリカに住んでいるアメリカ人Cさんが、アメリカに住んでいたアメリカ人Dさんから遺産を相続した」としても、日本の相続税が課税されないことは当たり前です。

ただし、例外があります。それはDさんが日本国内に遺産を保有していた場合です。このとき、Cさんは日本国内にある遺産については日本の相続税が課税されます。

ここらへんはまだ分かりやすいのですが、もっと複雑な事例が数多く出てきます。

  1. ずっと外国に住んでいる日本人Eが、死亡した日の前5年以内に日本に住んでいたことのある日本人Fから国外財産を相続した場合

財産を遺した人も、遺産をもらった人も日本人ですが、亡くなった時点ではどちらも外国に住んでいました。そして、亡くなった人は、以前に日本に住んでいたことがあります。そのうえで国外財産を相続した……。この場合、国外財産に対しても、日本の相続税が課税されます。

  1. 外国に住んでいる外国人Gが、日本に住んでいた日本人Hから国外財産をもらった場合

外国にいる外国人が国外財産をもらった。しかし、財産を遺したのは国内にいる日本人。この場合にはどうなるのでしょう? 実はこのときにも、国外にある遺産に対して日本の相続税は課税されることになります。

まるでパズルゲームのようなお話ですが、国籍や死亡時点での住所、それに遺産の所在地によって相続税の課税関係は目まぐるしく変わります。

そして、法律の隙間を狙って相続税を逃れようとする富裕層が一定数いることもまた事実です。日本国籍を有してはいるものの、住居を国内に構えず、国外を常に移動しながら財産を海外へと移転させるようなことを繰り返していれば、いずれは日本の相続税を課税されないで済むような状況を作り上げることができるのです。

国外財産の課税対象が拡大

今回の改正では、国外財産に対する課税が強化されることになります。

  • 日本国内に住所を有していたことがある期間が長くなる

上の事例の3番目、EさんとFさんの事例でのポイントは5年という期間でした。財産を遺した人、あるいは遺産をもらった人が死亡した日の前5年以内に日本国内に住んでいたことがある場合には、国外財産も課税対象に含めるというものです。

今回の改正により、この期間が10年に延長されることになります。より長い期間が判定期間となるため、租税回避行為が難しくなります。

  • 財産を遺した人の住所についても期間判定が行われる

上の事例の4番目、GさんとHさんの事例では、Hさんが死亡時点で日本国内に住所を有していたことがポイントです。今回の改正では、Hさんが仮に死亡時点で日本国内に住所がなかったとしても、死亡した日の前10年以内に日本国内に住所があった場合には、国外財産も課税対象に含めることになりました。

国籍という制度を利用して日本人であることをやめ、外国人として生活をすることで日本の相続税を逃れる行為について、より厳しく対処することになります。

このように、今回の税制改正では、国籍や住所、遺産の所在地など、さまざまな方向から相続税の課税範囲を拡大させようという意図が強く出ています。

もちろん例外もある

もちろん、上記で紹介した改正は一時的に居住している外国人については除外されることになっています。難民や移民など、さまざまな事情により日本国内に居住する人々に対する配慮も盛り込まれる予定です(2017年3月時点)。人や財産の出入りが激しくなってきた昨今、より柔軟な制度を構築しながら、課税体制は強化をしていこうという国際的な協力体制を構築する方向で、各国の制度が動き出しています。

まとめ

相続税の課税範囲は実に多様です。そのため、富裕層が住居や財産を国外に移し続けることで日本の相続税を逃れることも可能です。今回の税制改正では、それを防止するための新しいルールが導入されました。一方で、一時的滞在をする外国人に対する免除規定も用意されました。柔軟でかつ強力な課税体制を構築すべく、世界中の国が協力をはじめています。

文:高橋昌也(税理士)

参考:

  • 相続税がかかる場合|国税庁

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