税制改正で、事業承継税制はどう変わる?

平成29年度税制改正で、事業承継税制と相続時精算課税制度の併用が認められました。具体的にはどう変わったのでしょうか? 専門家が分かりやすく説明します。

事業承継税制とは

「事業承継税制」とは、中小企業の円滑な事業承継を支援するための相続税・贈与税の納税猶予の特例のことです。世代間で事業承継を行うには、通常、現オーナー経営者が自社株を後継者に譲渡します。しかし、一般的に株式の譲渡には税金がかかります。

そこで、税負担がネックになり事業承継が滞らないよう、後継者が相続または遺贈により取得した株式については、80%部分の相続税の納税が猶予されます。また、贈与の場合には、全額の納税が猶予されます。そして、承継後、一定の要件を満たすことで猶予は免除となります(対象となる株式は、最大発行済議決権株式の2/3までの部分です)。

つまり、限りなく抑えた税負担で、自社株を後継者に移転させることができる仕組みなのです。これは、かなりの優遇措置ですので、細かい要件をクリアしなくてはなりません。この事業承継税制の納税猶予の主な要件は以下のとおりです。

  1. 中小企業者で、上場会社、風俗営業会社、資産管理会社、休眠会社でないこと
  2. 後継者が会社の代表者であり筆頭株主であること
  3. 雇用の8割以上を維持していること
  4. 猶予対象株式を継続保有していること

このうち、3番の「雇用の8割以上」というのは、規模の小さい会社にとってはかなり厳しい要件です。また、要件を満たさなくなって納税猶予が打ち切られてしまうと、猶予税額と利子税をあわせて納めなければなりません。要件を満たさなくなった場合の税負担を心配して、適用を躊躇するケースも少なくないのが現状です。

平成29年度税制改正での見直しポイント

今回の改正での大きなポイントは、「雇用確保要件の計算方法の見直し」「相続時精算課税の適用」、そして「切り替え時の中小企業要件・非上場会社要件の撤廃」などです。

  • 「雇用確保要件」とは、原則として5年平均で従業員数の8割を維持しなくてはならいという要件です。この計算上で、改正前は端数を切り上げていましたが、改正後は端数切捨てとなりました。

例えば、従業員4人の会社であれば、端数切り上げでは4×80%=3.2人→4人となります。これは、4人いないと8割の要件を満たさないということです。したがって、1人でも辞めてしまうと、猶予を受けられなくなります。しかし、端数切り捨てなら4×80%=3.2人→3人となります。1人減って3人となっても8割となり、猶予を受け続けられます。

このほか災害や取引先の倒産などが発生した場合でも、雇用確保要件等が緩和されます。

  • 贈与税の納税猶予の適用を受けていた株式について、相続時精算課税制度の適用が可能となりました。万が一、要件を満たせずに納税猶予が取り消された場合でも、相続時精算課税制度の適用により特別控除2,500万円と税率20%で贈与税を納め、相続発生時に精算することになります。
  • 贈与税の納税猶予の適用後に先代(贈与者)が死亡した場合には、一定の要件を満たせば贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予に切り替えられます。改正前は、この切り替え時において中小企業であることや非上場会社であることが要件でしたが、これが撤廃されました。後継者が頑張って会社を大きくすると、相続税の納税猶予が受けられなくという問題が解消されることになります。

事業承継税制と相続時精算課税制度との併用のメリット

事業承継税制と相続時精算課税が併用出来ると、高額な贈与税の負担のリスクを軽減することが出来ます。例えば、先代経営者が2億円の株式を贈与して、納税猶予の適用を受けていたとしましょう。そのほかの資産はなく、相続人は後継者1人とし、利子税は考慮しないとします。要件を満たなさない事態が発生し、納税猶予を取り消された場合、贈与税約1億300万円がかかってきます。

これが、相続時精算課税制度を適用すると、贈与税は約3,500万円になります。そして、相続時精算課税制度で納付した贈与税は相続発生時に相続税の計算に取り込まれて精算されるので、結果として税負担は通常の相続税の納税額と等しくなります。

ちなみに、この資産額で計算した相続税額は4,860万円です。相続時精算課税制度と併用することにより、納税猶予取り消し時に3,500万円、相続発生時に1,360万円払うことになります。1億円以上の贈与税とはかなり違いますね。

まとめ

事業承継税制は近年、要件が緩和される傾向にありました。そこに今回の税制改正でさらに拡充され、だいぶ使いやすくなったといえます。中小企業経営者の高齢化が進み、生前贈与を含めた事業承継を、税制でも後押しする改正内容です。平成29年1月1日以後の相続・贈与等により取得する財産にかかる相続税・贈与税から適用されます。

そして、平成29年4月1日から、この事業承継制度の窓口がこれまでの経済産業局から都道府県に変更となっています。ご注意ください。

文:川﨑由紀子(税理士)

参考:

  • 「平成29年度税制改正(案)のポイント」(平成29年2月発行)1 個人所得課税・資産課税|財務省
  • 平成29年度 経済産業関係 税制改正について(PDF)|経済産業省

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